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5000円札が好きになる本、樋口一葉の『たけくらべ』

読んでみて、やはり名作は違うな・・・と妙に納得してしまいました。

この物語はそれほど長い物語ではないのだけれど、古文調の仮名遣いといいい、「徒然草」を思わせるような繊細な情景描写といい、本気で読んでいてうっとりしてしまう・・・。

ストーリー的には、吉原と言う遊郭の界隈に住む、大人の一歩手前の子供たちの世界を、幼い恋心などを交えて描写したもの。これがいらずらに子供の世界を神聖に描いているのではなく、むしろ子供の世界から透けて見える大人の世界を強く想起させ、なんとも懐の深い作品になっている。

そしてこの物語の舞台になっているのが、当時政府公認の風俗街であった遊郭、東京吉原。

欲望と哀愁、そして江戸の情緒を色濃く漂わせた異空間。

きっと西洋化されていく社会に一生懸命に喰らいこうともがいていた当時の日本人にとって、江戸の風情を昔のままに残したこの町は、どこか懐かしい匂いのする、慕情を誘うような桃源郷であったのだと思う。

そんな背景があったからこそ、この物語は日本の珠玉の名作として残ったということもあるのかもしれません。

考えてみると、日本人のアイデンテンティティって未だに江戸にあるような気がしません?

歴史小説とか時代劇とか・・・。

もちろん樋口一葉にしろ、森鴎外にしろ、永井荷風こしろ、この時代の作家達も、一生懸命西洋の小説から学びつつも、アイデンティティは、ほとんどこの江戸に求めていたような気がしてなりません。

かつて司馬遼太郎が、「明治という国家」という有名なエッセイの中で、近代史における江戸の役割と言うのを非常に高く評価していましたが、私もこの江戸という時代は、単なる娯楽の対象ではなく、日本人を形作った大きな何かが含まれているような気がしてなりません・・・。

ん?

なんだかセンチメンタルな江戸論になってしまいましたが、この作品は、内容を語るのもはばかられるくらい、美しく、そして切ない、とても素敵な物語でした・・・。

そしてこの物語のヒロイン、美登利(みどり)は、私が今まで読んだ本の中で、一番魅力的なヒロインでした。

もし古文が苦手な方は、現代語訳も付属した、角川ソフィア文庫版『一葉の「たけくらべ」』がオススメです。

5000円札ってなんか嫌いでしたが、これからはいつも財布に入れておきたいと思います(笑)

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