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村上春樹の『ランゲルハンス島の午後』を読んで

見開き1ページの村上春樹のエッセイと、それと関連しているような関連していないような安西水丸の見開き1ページの絵が、交互に繰り返される本です。三十年以上前の連載をまとめた本ですが、全く古さは感じません。

もちろん、個々の内容には時代を感じるものもあります。「シェービング・クリームの話」では、タクシー代を払うために1万円札を崩す時、シェービング・クリームを買う、というエピソードが出てきますが、今だったらクレジットカードや電子マネーで払えてしまうし、そもそもお釣りを切らしているタクシー運転手がいたら、ネットで炎上しかねませんよね。

一方で、今でもというか、今だからこそ共感してしまう話もあります。「みんなで地図を描こう」では、「地図描き教室」があって、きちんとした地図の描き方を学んだ女の子が会社にいたら、という村上さんの妄想が語られるのですが、「地図描き教室」が本当にあったらいいなと、心から思います。それこそ今だったら、ネットでいくらでも地図は出てきます。でも、ポイントとなる目印をきちんとおさえた手作りの地図の方が、かえって目的地にたどり着きやすいということもあるので。

時間がちょっと空いた時に、ぱらぱらとめくるのに最適な本です。それこそ「葡萄」にあるように、止まってしまった列車の車内でのんびり葡萄を食べながら読んだり、表題の「ランゲルハンス島の午後」のように、春の川岸に寝転がりながら読めたりしたら最高です。それが現実に無理だったとしても、そうしているような気分を、読むたびに味わえるエッセイ集です。

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